ただ直木賞とは相性が悪く、『望郷』が第149回、『ポイズンドーター・ホーリーマザー』が第155回、『未来』が第159回と、今回の候補者の中では最多の過去3回のノミネートを果たしているが、受賞には至っていない。『落日』は、4回目の候補作である。 好きな作家は窪美澄、伊坂幸太郎、村上春樹と今まで答えていましたが最近は好きな作家が増えて過ぎていて錯乱中です(笑)ジャンルは幅広く読んでいます。.  前回は、窪美澄『トリニティ』を本命、朝倉かすみ『平場の月』を対抗、柚木麻子『マジカルグランマ』を穴と予想したが、結果は大島真寿美『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』だったので、またしても外れ。これで予想は2勝4敗となり、借金を増やしてしまった。  『背中の蜘蛛』は、犯罪抑止や事件捜査の円滑化のためなら、ある程度まで国家による監視を認めるべきか否かという、現代的で誰もが無縁ではないテーマを描いているが、人気の刑事ドラマ〈相棒〉シリーズで先に似た問題を取り上げていたので、決して目新しくはない。監視システムを管理する側にいる、いわば“敵”を、人情(倫理)に訴えて切り崩すところも、実際に監視社会が進んでいる現状を思えばあまりに楽観的だった。, 湊かなえは、2007年に「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞、2008年に同作を含む連作集『告白』を刊行すると、各種ミステリーベスト10の上位になり確かな実力を見せつけた。その後は、「望郷、海の星」で第65回日本推理作家協会賞の短編部門を、『ユートピア』で第29回山本周五郎賞を受賞。惜しくも受賞を逃したが、2018年には『贖罪』が、アメリカ探偵作家クラブが主催するエドーガー賞の候補にもなっている。

 競馬好きだった父が亡くなり、無名の競走馬「テンペスト」のオーナーになっていたことを知った作家が、父が調べた「テンペスト」の血統にまつわる原稿を読み進める「ひとすじの光」は、さらにSF的な要素がないが、最後まで読むと、緻密な構成と巧みな仕掛けに驚かされるだろう。「時の扉」は、語り手が王に物語を聞かせる『千夜一夜物語』風の展開が、現代史の“闇”とリンクするラストに圧倒された。音楽を貨幣のように使っている少数民族と、幼い頃、スパルタ指導をする父に嫌々ながらピアノの手ほどきを受け、今は音楽会を撮影する会社に勤める男の人生が結び付いていく「ムジカ・ムンダーナ」は、特殊設定を活かした一編といえる。機能性を重視し、シンプルな生活を提唱する企業の影響で「流行」が消えた社会に抗うため、無駄で過剰なヤンキーになる男を描いた「最後の不良」は、流行を追うのは正しいのか、個性とは何かを突き付けていて考えさせられる。

 その意味で、近代の政治史、文学史、文化史の知識があると、美しい部分だけを強調した川越の歴史観と小説作法には違和感を覚えるし、時代考証と物語の根幹が密接に関係しているだけに、そこを否定的にとらえる選考委員がいたら、ほかの選考委員も同調して評価が下がる危険があるように思えた。, 呉勝浩は、カリスマ的な教育家が小学校での講演中に刺殺され犯人が現行犯逮捕された事件を女性ディレクターが再調査する『道徳の時間』で、第61回江戸川乱歩賞を受賞してデビューした。『道徳の時間』は選考会での評価が分かれ、強硬に受賞に反対する選考委員もいる中での薄氷の受賞となった。呉はこの経験をバネにしたのか、ミステリーの仕掛けと社会的なテーマを融合させた高いクオリティの作品を早いペースで刊行しており、出所した犯罪者や犯罪予備軍との共生は可能なのかを問う『白い衝動』で第20回大藪春彦賞を受賞している。直木賞は、今回が初ノミネートである。 【直木賞・川越宗一『熱源』が受賞!】第162回候補作を徹底解説! | P+D MAGAZINE TOPへ.

 穴は『背中の蜘蛛』。小説のクオリティではやや劣るが、功労賞であれば、最も小説家としてのキャリアが長い誉田哲也が受賞しても不思議ではない。  第二部「顔のない目」は、警視庁組織犯罪対策部の植木範和警部補を主人公にしている。所轄の佐古と麻薬の売人らしい森田一樹の行動確認をしていた植木は、森田を尾行して新木場のライブハウスにたどり着く。森田がコインロッカーを利用して麻薬の売買をすると確信した植木は、現場を押さえようとするが、仕掛けられた爆弾が爆発し、森田は即死、植木も重症を負ってしまう。この事件も捜査が難航するが、植木がコンビを組んだ佐古が職務質問をした男が犯人だったと分かる。退院して捜査に復帰した植木が佐古に確かめると、タレコミがあったので職務質問をしたという。 今年の芥川賞は古川真人の「背高泡立草」、直木賞は川越宗一の「熱源」で決定! 作家のプロフィールや作品情報、商品リンクなどをまとめました。 スポンサーリンク.

 おそらく今回は、頭一つ抜けていた『熱源』と『落日』の一騎打ちになると考えている(この二作に対抗できるのは『噓と正典』だが、これは選考委員の理解の外側にあるので、受賞はないと見る)。そのため悩むのだが、辺野古新基地建設の是非をめぐる県民投票が目前に迫っていた時期に選考が行われた第160回直木賞が、沖縄の現代史を扱った真藤順丈『宝島』になったように、2019年4月、アイヌを先住民族と明記した、いわゆるアイヌ新法が成立したこと考慮するなら、センシティブなアイヌ問題に正面から挑み、ダイナミックな物語を作った川越宗一が有利なように思え、『熱源』を本命とする。昨年、大英博物館で開かれたマンガ展のキービジュアルに、野田サトルの漫画『ゴールデンカムイ』に登場するアイヌの少女アシリパが描かれるなど、少数民族の権利を守り、共生をはかることは世界的な関心事になっており、これも追い風になるように思える。  笹塚町出身の甲斐千尋は、有名脚本家の事務所で働きながら一本立ちを目指していた。そんな無名の千尋に、自殺した人たちの最後の一時間に着目した映画で高い評価を得た香が連絡してくる。笹塚町で起きた一家殺害事件の被害者が、幼い頃にベランダでささやかな交流をした真尋ではないかと考える香は、事件を題材にした映画の脚本を千尋に書いて欲しいという。被害者の真尋は、ピアニストとして世界中を飛び回っている千尋の姉・千穂、従兄の正隆と同級生だった。法事で笹塚町に帰った千尋は、正隆に高校時代の真尋と親しかった女性を紹介され、真尋の意外な一面を聞かされる。

 現在、何か大きな事件が発生すると、マスコミが報じ、ネットで情報が拡散され、被害者や犯人、司法とは別のところで、受け手がそれぞれに物語を作っている。そんな物語では事件の本質は見えないとするミステリーは珍しくないが、『落日』は当事者に近い香と千尋が、クリエイターとして事件と向き合い、あがきながら事件を物語化することの意義を考えており、このテーマに新たな風を送り込んだといえる。湊は、これを香たちの特殊事情とするのではなく、ミステリー作家が殺人事件を書く意味という自身の問題に重ねることで、普遍性の高いテーマに昇華させることに成功した。それだけに読者も、事件の物語化とどのように向き合うべきなのかを、真剣に考えることになるだろう。  選考会は、2020年1月15日、築地の料亭・新喜楽で開催される。結果を楽しみに待ちたい。, ●すえくによしみ・1968年広島県生まれ。歴史時代小説とミステリーを中心に活動している文芸評論家。著書に『時代小説で読む日本史』『夜の日本史』『時代小説マストリード100』、編著に『山本周五郎探偵小説全集』『岡本綺堂探偵小説全集』『龍馬の生きざま』『花嫁首 眠狂四郎ミステリ傑作選』などがある。, 女性だからこそ描くことができる恋愛の辛さや葛藤を詰め込んだ作品が多く受賞している「女による女のためのR-18文学賞」。今回は、受賞作の中から、5つの物語を紹介します。切なさに共感したい方や女心を知りたい方は必見です。, 前回に続き、2015年の本屋大賞6位から10位の作品について簡単にあらすじをご紹介します。書店員さんのおすすめ作品なので参考にしてみてください。, 第1回メフィスト賞受賞作の『すべてがFになる』や押井守監督によってアニメ映画化された『スカイ・クロラ』など、多数の代表作を持つ小説家・森博嗣。今回は森博嗣をこれから読んでみたいという方に向けて、そのおすすめ作品を4作ご紹介します。, 2017年4月、話題の映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』が公開されます。ある日本の漫画が原作ですが、ご存知でしょうか? 今回は、その原作に影響を与えた・または与えられた、「サイバーパンク」作品を紹介しながら、その魅力に迫っていきます。, 劇作家として日本の不条理演劇を確立したとともに、童話や随筆など多岐にわたる分野でも功績を残した別役実。今回は、別役実の戯曲・童話からそれぞれおすすめの作品を4作品ご紹介します。, 作家が自ら文章の書き方や読み方、上達法について記した文章指南本である『文章読本』。谷崎潤一郎を始め、川端康成や三島由紀夫といったさまざまな文豪がこの『文章読本』を発表しています。今回は、そんな作家の『文章読本』のなかから特におすすめの4冊をご紹介します。, 『君の膵臓をたべたい』、『火花』をはじめとする候補作を抑え、第13回本屋大賞を受賞した『羊と鋼の森』。「本から音が聴こえる」と思わせるほど美しく、上質な表現が魅力の今作は、2018年6月8日に実写映画も公開。タイトルの由来や、作中のキーワードを解説します!, 酒、女、競馬、そして書くことを愛した米国の作家チャールズ・ブコウスキー。49歳で作家に専念するようになるまであらゆる職を転々として放浪し、働きながら創作し続けた彼の生涯は破天荒そのものでした。今回はどこか人生の悲哀を感じさせる、チャールズ・ブコウスキーの作品を5つ紹介します。, 高山羽根子『首里の馬』、遠野遥『破局』の2作の受賞が決定した第163回(2020年度上半期)芥川賞。その受賞候補となった5作品の読みどころを、あらすじとともに徹底レビューします!, ジャンルも書き手も膨大なミステリー小説の世界。興味はあるけれど、どれから手をつけていいか わからない……。そんなあなたに、「ミステリー」の代表的な 5つのジャンル「探偵」、「密室」、「倒叙ミステリ」、「日常の謎」、「あやかし」から、入門編としてオススメの5冊を紹介します。実力派の気鋭作家たちによる、サービス精神たっぷりの極上ミステリーで、謎解きの快感を味わってみて下さい。, 「初対面の人と何を話したらいいのかわからない」、「大勢の人が集まる場が苦手」……。そんな性格で、「人見知りを克服したい」と願う人に紹介したいのが、有名人の人見知り克服方法。さまざまな人と関わる職業に就く彼らは、いかにして人見知りだった自分を変えたのでしょうか。, これまで与謝野晶子や谷崎潤一郎など、多くの作家が手がけてきた『源氏物語』の現代語訳。リアルな感情描写に定評のある角田光代さんによる現代語訳が、読みやすくておもしろいと大人気です。難しそう、長くて大変そう……と敬遠してきた人こそ手に取ってほしい、新しい『源氏物語』になっています。下巻刊行を機に、今だから明かせる翻訳秘話などをうかがってきました。, 映画『翔んで埼玉』が大ヒットを記録しています。映画や原作をご覧になった方の中には、「もっと埼玉の地名やローカルネタに詳しければ、よりこの作品を楽しめるのに!」と思われた方も少なくないのでは? そこで今回は、埼玉が舞台の名作小説を3作品ご紹介します!, 夏といえば“怪談”。夏目漱石から京極夏彦まで、新旧の大作家によるとっておきの怪談をご紹介します。怪談作家・黒史郎さんによる書き下ろし怪談『ピエロ』もお楽しみください。, 高級ホテルでの連続殺人事件の謎を追う東野圭吾のミステリー『マスカレード・ホテル』が原作の映画がヒット。そもそもホテルは、色々な人々がつかの間滞在し、様々なドラマをくり広げる非日常な場所で、小説の舞台にうってつけです。ホテルが舞台のおすすめ小説6作を紹介します。, 読書のノウハウについて解説する本、『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』が大きな注目を浴びています。東大生にとって当たり前の習慣である「能動的な読書術」とはどのようなものか、著者である西岡壱誠さんにお聞きしました。, 8月の名物と言えば、高校球児たちが熱戦を繰り広げる「甲子園」。中継を見るたびに、思わず目頭を熱くしている方も多いのではないでしょうか。今回は、そんな甲子園を舞台とした傑作小説を3作品ご紹介します。, ライトノベルやアニメを中心に「特別な力」を描いた「異能力小説」が急増しています。近年人気を集めるこのジャンルの魅力やおすすめの作品をご紹介します!, 国内外を問わず、あらゆるときめきが詰まった書籍を紹介する書評エッセイ集、『優雅な読書が最高の復讐である』。長年にわたり、女性たちの心をつかむカルチャーを広く紹介されてきた著者の山崎まどかさんに、少女向け小説を読んでこなかった大人におすすめしたい作品、今まさに山崎さんが読んでいる魅力的な作品をお聞きしました。, レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシャル(両性愛者)、トランスジェンダー(身体上の性別に違和感を持った人)、クエスチョニング(自分の性別や性指向が定まっていない人)といった、性的少数者の総称“LGBTQ”。 そんなLGBTQを描いた文学作品を紹介します。, Facebookページへいいね、Twitterをフォローすることで、P+D MAGAZINEの最新記事をSNSでお届けします。, △  N県N市笹塚町のアパートで暮らす幼稚園児の長谷部香は、小学生用のドリルの成績が悪いと教育熱心な母にベランダに追い出されていた。ある日、香は、隣室の立石家の子供もベランダで過ごしていることを知る。成長した香は新進気鋭の映画監督になり、立石家は、引きこもりの長男・力輝斗が、妹でアイドル志望という真尋をめった刺しにして殺し、自宅に放火して両親も死に至らしめる大事件の当事者になった。

 小菅はなぜ事件解決のヒントを知っていたのか、そして佐古に情報提供したのは誰か。この謎を残したまま第三部「蜘蛛の背中」が始まる。本庁に異動し、新木場の爆殺事件を担当することになった本宮は、佐古へのタレコミと、自分かかわった小菅の特命が似ていると気付く。警視庁の怪しい動きを調べる本宮のパートと並行して、社会の底辺で生きる姉弟と知り合ったフリーターの青年が、二人を助けようと奔走する物語が描かれ、これらがどのように結び付くか判然としないまま進むだけに、そのサスペンスは圧倒的だ。

 物語は、後にカール・マルクスと組んで共産主義の論理を構築するフリードリヒ・エンゲルスが、イギリスで工場を襲撃した容疑で裁判にかけられる場面から始まるが、すぐに舞台は東西冷戦下のソ連に移る。CIАモスクワ支局の工作担当員のホワイトは、クラインなる男から情報提供を持ちかけられていた。電子電波研究所で静電加速器の実験を担当しているクラインは、電極があれば情報を過去に伝える技術を発見したという。クラインが本当に過去との通信を可能にしたのか、それとも妄想なのかを軸に進む「嘘と正典」は、スパイ小説、エンゲルスと共産主義の歴史、過去と通信する未知の技術といった無関係に思えるエピソードを繋げながら、驚愕のラストを作った小川の手腕に圧倒された。  『熱源』は、2019年に刊行された歴史小説の中でもベスト3に入ると考えているので、今回の直木賞候補になった唯一の歴史小説なのも納得できる。ただ傑作だけに、細かな問題点も目に付いた。例えば、ヤヨマネクフと交流を持つ金田一京助は、アイヌ文化の理解者として描かれているが、西洋と日本の文化を最上位とし、アイヌの文化は未開人のものとする考えを完全には捨てておらず、アイヌは独自の言語を捨てて日本語を使うべきだとも主張している(このあたりは、金田一の弟子で師匠への敬愛を語りながら、アイヌへの差別や偏見を厳しく批判したアイヌの言語学者知里真志保(ちりましほ)の著者からもうかがえる)。  テーマの設定は見事だし、トリックとメッセージ性を巧く融合させたところも評価できる『スワン』だが、映像作品であれば、登場人物のナレーションをバックに再現映像が流れる回想シーンが多く、そこでの人物の動きが複雑なので、ミステリーを読み慣れていないとつらいように思えた。またネットの無責任な書き込みとどのように向き合うべきか、事件報道のあり方、いずみたちの再生の物語など様々なエッセンスが詰め込まれているが、どれも踏み込みが足りず、すべてのテーマが十分に深められていないのも残念だった。, 2002年に『ダークサイド・エンジェル紅鈴 妖の華』で第2回ムー伝奇ノベル大賞の優秀賞を受賞してデビューした誉田哲也は、2003年に『アクセス』で第4回ホラーサスペンス大賞の特別賞を受賞している。今回の直木賞候補者の中では最もキャリアが長く、女性刑事を主人公にした〈姫川玲子〉シリーズや〈ジウ〉シリーズ、剣道に打ち込む対照的な少女2人の成長を描く〈武士道〉シリーズなど、映画化、ドラマ化された人気作を幾つも抱えている誉田だが、直木賞のノミネートは今回が初となる。『背中の蜘蛛』は、誉田が得意とする警察小説である。  一般的なミステリーは、謎めいた事件が解決すると物語は終わる。だが呉は、デビュー作から一貫して、犯人が捕まり、謎がなくなった後も残る犯罪被害者や加害者の家族、その友人らの苦しみ、犯人や関係者の周辺を勝手に詮索して事件を娯楽として消費する高度情報化社会の実像などを徹底して暴くことで、一つの事件の終わりとはなにか、“真実”とは何かを問い続けている。『スワン』も、この系譜の作品である。  『落日』は、パズルのピースのように断片が集まり、意外な絵を浮かび上がらせるプロット重視のミステリーで、何気ない一文が後で重要な伏線になったり、前半に描かれたシーンにまったく別の意味があったことが判明したりと、最後まで先の読めないスリリングな展開が楽しめる。暗い物語なのに、光も垣間見え読後感が悪くないのも嬉しい。 樺太(サハリン)で生まれたアイヌ、ヤヨマネクフ。開拓使たちに故郷を奪われ、集団移住を強いられたのち、天然痘やコレラの流行で妻や多くの友人たちを亡くした彼は、やがて山辺安之助と名前を変え、ふたたび樺太に戻ることを志す。一方、ブロニスワフ・ピウスツキは、リトアニアに生まれた。ロシアの強烈な同化政策により母語であるポーランド語を話すことも許されなかった彼は、皇帝の暗殺計画に巻き込まれ、苦役囚として樺太に送られる。日本人にされそうになったアイヌと、ロシア人にされそうになったポーランド人。文明を押し付けられ、それによってアイデンティティを揺るがされた経験を持つ二人が、樺太で出会い、自らが守り継ぎたいものの正体に辿り着く。樺太の厳しい風土やアイヌの風俗が鮮やかに描き出され、国家や民族、思想を超え、人と人が共に生きる姿が示される。金田一京助がその半生を「あいぬ物語」としてまとめた山辺安之助の生涯を軸に描かれた、読者の心に「熱」を残さずにはおかない書き下ろし歴史大作。, 本書をお読みになったご意見・ご感想をお寄せください。投稿されたお客様の声は、弊社ウェブサイト、また新聞・雑誌広告などに掲載させていただく場合がございます。, ※いただいた内容へのご返信は致しかねますのでご了承ください。

 取材で集めた素材を組み合わせて物語を作り、受け手にメッセージを伝えることの大切さ、それは関係者を傷付けるかもしれないし、間違った真相を導き出すかもしれないという困難とも表裏一体になっている事実をミステリー小説に仕立てた『落日』は、物語をめぐる物語だった前回の直木賞受賞作、大島真寿美『渦 妹背山婦女庭訓魂結び』との共通点も少なくない。選考委員が前回とほぼ変わっていないだけに、同じように評価されるかもしれないが、反対に似た傾向の作品の連続受賞は避けたいとの意見が出る危険もある。, 以上を踏まえ、第162回直木賞を予想してみたい。  記憶をたどりながら、事件の日にスワンで見たこと、自分が取った行動を語っていく5人によって、次第にスカイラウンジで何が起きたのかが明らかになっていく。それと並行して、加熱した報道、ネットで巻き起こったバッシングなどでいずみたちの人生が大きく変わってしまった現実も浮かび上がるようになっている。

 『背中の蜘蛛』には、街中に設置された監視カメラの映像を分析して、殺された現場に向かった被害者の足取り、犯人の逃走経路などを分析する最新の捜査が描かれている。ただメインになるのは、監視カメラの映像などより簡単で広範囲の個人情報を収集するシステムの是非である。誉田は、もしかしたら既に個人の監視や犯罪捜査に使われているかもしれない技術を使って物語を紡いでおり、監視社会の恐怖が身近に感じられるだろう。

文明という理不尽な圧力に立ち向かう熱い人間を描いた『熱源』, 「オール讀物」編集部「<川越宗一インタビュー> 全国の書店員から絶賛の声が! 読者の胸を熱くさせる「強烈な故郷への思い」」.  2度の世界大戦を経験した人類は、異なる国、異なる人種、異なる民族、異なる宗教であっても互いを尊重し、認め合う社会を作る方向に進んでいたが、近年は19世紀末から20世紀初頭のように、自国第一主義を掲げる国、自分が属する人種、民族を絶対と信じ、異なる価値観を持つ人たちを見下す風潮が世界的に広まっている。差別と偏見に抗い、分断を乗り越える方法を模索したヤヨマネクフたち姿は、現代の社会問題を浮き彫りにし、それを解決するヒントも示してくれているのである。 【第162回 芥川龍之介賞】古川真人  “珠玉”といえるほど外れがない本書の中でも、表題作「嘘と正典」は出色だ。  3人の男が、首都圏にある巨大ショッピングモール「湖名川シティーガーデン・スワン」の駐車場に、車を止めた。2人は仲間の1人を殺すと、自作した拳銃や日本刀を持って売り場に入り無差別殺戮を開始。スカイラウンジでは、人質に次に殺す人間を選ばせるゲームをした犯人は、死者21名、重軽傷17名を出した後に2人とも自殺した。